院長紹介
院長 松谷 克彦
クリニックの理念
私は精神科医になってから20年間思春期病棟でさまざまな困難を抱えた青年と関わってきました。
そこでは多くの子どもたちが幼小児期からサインを出しつつもそれが周囲にうまく伝わらず、または伝わったとしても周囲もいろいろな事情で子どもの心をケアすることが難しい中で成長して、思春期の大きな変化の時期になって不適応が表面化していました。
そこで乳幼児期から思春期・青年期までの子どもとその家族が気軽に相談できる精神科クリニックの必要性を感じて2005年に開業することとしました。
ファミリーメンタルクリニックまつたにでは、以下を基本理念としております。
ひとりひとりのための医療
精神医療は「心」という眼に見えないものを対象としているため、医療の質の評価が難しいとされてきました。昨今は、その反省からか国際的な診断基準によって診断を行い、エビデンスに基づいて治療計画を立てる風潮が見られています。しかし、「心」を病むということは極めて個人的な体験です。例えば、「ゆううつ」になったとしてゆううつの成り立ちや背景はひとりひとり異なるはずです。それを現時点での症状のみから統計的に分類し「うつ病」と診断して、統計的に治癒率の高い薬物から順次使用するマニュアル的治療が「心」の治療になりうるのか?という疑問が残ります。
当院では、受診した子どもさんひとりひとりの気質や背景を踏まえて、その子どもさんに最適な医療を提供したいと考えております。そのために対話を大切にして症状の奥にある葛藤や不安に寄り添ってゆく精神療法中心の診療を目指しております。症状というものは苦しいものですが、その時にその症状が生じた意味があると思います。まずは立ち止まって、症状の背景にあるその方の生きてきた道程とそこでの思いを大切にして、その上で今できることを考えてゆきます。薬物療法は有用ではありますが、あくまで対処的かつ補助的なものと考えており、基本的には使用せず、使用する場合も最低限にしております。
家族とともに歩む医療
「家族」は人が育ってゆく場です。そして家族の成員ひとりひとりが成長する過程で「家族」自身も成長してゆきます。人の成長と同じように「家族」の成長にも節目があります。まず結婚とともに家族が生まれ、子どもの誕生、子どもの就学、子どもの思春期、子どもの結婚(ここで新しい家族が誕生します)などの節目を経て家族は成熟してゆきます。この節目の時期には当然のように家族全体が揺れることになります。その揺れの時期に家族全体を視野に入れた治療的な関わりを行うことにより家族が成長してゆけるように家族とともに歩んでゆく医療を目指しております。
児童精神科医ウィニコットの「ひとりの赤ん坊などというものはいない」という言葉があります。これは、子どもが単体でいるのではなく、そこにいるのは「親子」ということを言っています。例えば、親自身が何らかの不安にさらされているとすると、たとえ言葉に出さなくともその空気感は子どもには伝わります。子どもにとって親は空気のようなものであり、その空気の緊張感を子どもは受け取ります。また、子どもが症状を出すとき、それは子ども自身のみの問題ではなく、「親子」が抱えているテーマもそこに反映されていることがあります。その「親」自身もかつては子どもであり、そこでの「親子」関係の葛藤が今の親子関係に影響を与えていることもあります。そのように前の世代から引き継いだ(引き継がざるを得なかった)「家族」のテーマにも関わってゆきます。
ネットワークで子どもを支える医療
子どもは家庭だけでなく、幼稚園・保育園・学校・地域で生活しています。その中で様々な感情体験をします。子どもにとって世の中が楽しいこと嬉しいことに満ちていてほしいと願いますが、不安や怒りや悲しみを感じることもあるでしょう。基本的には子どもたちはそのようなネガティブな感情を自分なりに処理しようとします。しかしその対処能力を越えた感情が込み上げた場合、子どもの心の器から溢れることになります。その場合に溢れでたネガティブな情緒を受け止めるもう一段大きな受け皿が必要になり、それを大人が担うことになります。しかし時としてその溢れた感情が大人の受け皿からも溢れることもあり、その場合はその外側に更なる受け皿が必要になります。そこで子どもを取り巻く家族や教育機関や医療機関がネットワークとなって大きな受け皿を作り、子どもの気持ちを共感的に受け止めていけることを目指します。
略歴
- 昭和60年
- 九州大学医学部卒業
- 昭和60年
- 国立別府病院精神科勤務(研修医)
- 昭和61年
- 九州大学医学部付属病院神経科精神科勤務(研修医)
- 昭和62年
- 福岡県立太宰府病院勤務
- 平成元年
- 国立肥前療養所勤務
- 平成4年
- 関東中央病院精神科勤務
- 平成17年
- ファミリーメンタルクリニックまつたに開院
現在に至る
クリニックでは現在まで7000例の児童思春期の子どもや家族の
診療に当たっている。
資格・学会・著書など
- 東京都児童福祉審議会権利擁護部会諮問委員(平成12~20年)
- 東京都児童相談所協力医
- 日本児童青年期精神医学会会員
- 森田療法学会会員
- こころに寄り添うということ―子どもと家族の成長を支える心理臨床―(編著) 金剛出版社
- 森田療法を超えて―神経質から境界例へー(共著) 金剛出版社
- 共同治療者としての親訓練ハンドブック(共訳) 二弊社